小さなイップスは、意外に起きている

K:選手のことを心配するあまり、痛みのことなどをスタッフみんなが繰り返し繰り返し訊くことが刷り込みとなって、イップスの要因になる。考えてみると、大事に大事にあつかわれ過ぎると、そのことに過敏になってしまって、かえってよくないということは一般的にもありますね。

 

中野:イップスはいろいろな競技で起きています。水泳の選手では、フォームに問題は見られないけども、手に水が引っかからないというか、抜けてしまう感じがあったり、ランナーでは足に力が入らない、“抜け症”といったことが起きたりしています。これらも、イップスの問題だと考えられます。
K:「イップス」という名称が知られるようになり、心と体の結びつきの問題に光が当てられることで、今まで認識できなかったことができるようになってきたという感じがします。「熱中症」は今は一般に広く認識されるようになりましたが、私が1980 年代にトレーニング専門誌で熱中症のことを特集した当時は、スポーツの分野でもほとんど知られていませんでしたし、一般の人たちにはほとんどまったく知られていませんでした。「熱中症」は最近、急に増えてきたかのように思われていますが、1980 年代や、もっと前から熱中症で亡くなる人や重篤な状態になる人はたくさんいたわけです。
 名称とその意味することが一般の多くの人たちに認識されるということは、新たな世界が見えてくることだと思います。イップスもそうした新たな認識を拓く一つになるような気がします。

 

中野:身近に選手に接していると、小さなイップスというのはいろいろなところで起きているのが分かります。その小さなイップスを小さなままで終わらせるためには、ネガティブなイメージの刷り込みが起きないようにすることが大切です。
 変な言い方になりますが、小さなイップスを“安定したイップス”にさせないように、ネガティブなイメージの刷り込みを、トレーナーをはじめ、スタッフみんなが与えないようにサポートする必要があります。