「痛みのイップス」にも気をつけておきたい

中野:イップスについてもう一つ知っておいてほしいのは、一般的にいわれているイップスとは別に、いわば「痛みのイップス」というものがあるということです。
K:イップスといえば、一般的には精神的なことなどが原因して動きが思うようにならないことをいいますが、それが痛みにも出てしまうということですか?

中野:そうです。「痛みのイップス」というのは、痛みが消えなくなってしまうイップスのとです。本来ならなくなっていいはずの痛みが残ってしまう要因として、トレーナーの対応が考えられるので、ここも気をつけてほしいところですね。
K:どういう状況で起きる可能性があるのでしょうか?
中野:たとえば、シンスプリントを経験したことのある選手がいるとします。そういう選手がシンスプリンのような違和感、痛みがあるといってくれば、それじゃ、アイシングしようとか、ストレッチしようとか、少し休ませようといった対処をすることになります。
 選手からシンスプリントの痛みがあるといわれると、トレーナーとしてはシンスプリントが再発して悪くならないようにしてあげたいと、当然思うわけです。

K:万全のケアをしてあげたいと、トレーナーとしては思いますね。そこに「痛みのイップス」が出てくる余地というか、リスクが出てくるということですか。
中野:そうなんです。たとえば、その選手のシンスプリントへの対処として2日休んだとします。そしてその選手が練習に復帰したときに、トレーナーの立場としては、シンスプリントの痛みがどうかを訊きたくなりますね。
K:それは当然、訊きたいですよね。
中野:復帰の直後だけならともかく、練習後に毎回、毎回、「痛みはどう?」「痛みは出てる?」と訊いていると、そのタイミングで痛みが意識化され、頭のなかに記憶されてしまう。いわば、痛みの「条件付け」がされてしまうんです。

K:選手としては痛みが怖いわけですけど、意識し過ぎると、ここでもネガティブなイメージが定着してしまうようなことが起きるわけですね。
中野:そうです。ですから、痛みについて毎回訊くようなことは、やるべきではないんです。

K:それでも、トレーナーとしては、選手の痛みの状態は気になりますよね。それはどうすればいいんですか?
中野:痛みだけでなく、体の状態に関する相談は、選手のほうから積極的に(自由に)いうようにふだんから環境づくりをしておくことが大切です。
K:そこは重要なポイントですね。選手自身が自分の体をコンディショニング、マネジメントしていけるようになっていくことが大切ですね。そのためにも、自分から痛みなどの体の状態をいえるようにしておくことが必要ですね。