「イップス」はなぜ起こるのか?

本誌編集部・河辺(以下、K):フィジカルトレーナーズ協会の講習会で「イップス」についても取り上げているのを以前に協会のパンフレットで見て、イップスについて中野さんのお話をうかがってみたいと前々から思っていまいた。
 イップスについては、ゴルフのプロ選手で起きていること程度のことは知ってはいたのですが、3年くらい前のテレビ番組(TBS テレビ「消えた天才」)で、卓球の日本代表選手でもあった坂本竜助選手のイップスの話が取り上げられていました。坂本選手はイップスが原因で引退にまで至ったとの話でした。そのときイップスはゴルフだけではなく、ほかの競技でも起きているということを知ってあらためて興味を持ちました。

 

その番組で、坂本選手がイップスに悩まされていたときの映像が流されたのですが、それがとても衝撃的でした。サーブのシーンでボールを高く上げるのですが、そのボールにラケットが当たらないのです。
「えっ、わざとやってるんでしょ」としか思えないシーンです。トップアスリートの直面している現実を目の当たりして、テレビの前ながら、すごくショックを受けました。イップスというのは強烈ですね。選手の心のなかで何かすごいこと
が起きているのでしょうが、そもそもイップスはなぜ起きるのですか?

 

中野:イップスがなぜ起きるのかについては、まだ解明されていません。基本的にはなぜ起きるか分かっていないのですが、イップスの状況をつくっているのはもしかしたらトレーナーかもしれないと考えてほしいんです。

K:科学的な解明はされていなくても、イップスが起きやすい状況や条件を推測して、できれば予防対策は立てられたほうがいいですね。特に、指導する側がその要因をつくっている可能性があるとしたら、なおさら対策は考えておく必要がありますね。
中野:気をつけたいのは、日本ではごく当たり前に行われている「反省する」「反省させる」ということです。
K:反省するのは一般的にいいこととして考えられていますし、指導する側としてはむしろ積極的に反省させますよね。そこに何か問題があるのでしょうか?

中野:日本人の気質として真面目で勤勉なことがあげられますが、真面目だからこそ、反省するという習慣も根強くあります。反省することそのものが悪いというわけではないのですが、その反省する内容については気をつける必要があります。
K:一般的には、反省はよくない点を改善するためにするのだと思いますが、それがマイナスに作用するということですか?
中野:選手が真面目に反省すればするほど、イップスに陥る要因になりやすいという面があります。具体的にどういうことかというと、たとえば、ある選手がよくない(失敗の)プレーをしたとします。なんでその悪いプレーになってしまったかを反省し、改善するために、その映像を何度も何度も見る。それを繰り返しているうちに、悪いプレーの映像が頭のなかに残ってしまい、そこから抜け出せなくなってしまう。

簡単にいうと、これがイップスの要因になってしまうと考えられます。
K:トップアスリートであればあるほど真面目に努力するので、その努力の中身として、中野さんが指摘されているような反省のメカニズム(失敗の映像を繰り返し見ることによる刷り込み)が働いていることが十分に考えられますね。だからこそ、プロレベルのトップアスリートにも起こりやすい……。
中野:トップアスリートだから単純にメンタルが強いというわけではなく、反省して頑張る能力が高いからこそイップスが起きやすいという面があるといえると思います。

 

つづく