肥満のもたらす “免疫の暴走”を食い止める最新研究

メタボリックシンドロームは、心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病、腎臓病など、命に関わる重篤な病気につながっていきます。そして、そこには、脂肪細胞から異常放出されたメッセージ物質TNFαが引き起こす“免疫の暴走”が関わっていることが明らかになっているといいます。
 この“免疫の暴走”を抑える物質として期待されているのが、運動中に筋肉が発する、あるメッセージ物質だといいます。これについて解説した箇所を、『人体~神秘の巨大ネットワーク』2から、以下に引用します。

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 ベンテ・ペダーセン博士(デンマーク・コペンハーゲン大学教授)の考える筋肉が免疫の暴走を抑えるメカニズムは次のようなものだ。
 運動をすると、筋肉からメッセージ物質IL-6が大量に放出される。そして、IL-6は血液の流れに乗り、血管を通じて全身に運ばれる。 IL-6を受け取るのは、メタボリックシンドロームの人の体内で暴走している免疫細胞だ。IL-6は「戦うのはやめて」と働きかける。すると、免疫細胞の戦闘モードが次第に解除され、さらに、盛んに飛び交っていたTNFαの警告メッセージも静まっていく。こうして免疫の暴走が収まり、体の中で起きていた炎症が抑えられるというわけだ。
 ペダーセン博士は、「筋肉は、単に体を動かすだけののものではありません。太らないために十分な運動が必要なのはいうまでもありませんが、病気にならないためにも運動をして筋肉をつけることが大事なのです。運動は治療の一環であり、メタボリックシンドロームや糖尿病、心臓疾患、がんなどを発症した多くの患者への“ 処方薬”だともいえるのです」と指摘する。
 そして、筋肉には、メッセージ物質を通じて、脳や心臓、肝臓、すい臓、脂肪といった他の臓器に働きかけ、健やかな状態を取り戻そうとする驚異的な力が備わっている可能性がある、と期待を込める。
 最後に、ペダーセン博士は力強くこう締めくくった。

「進化のうえで考えると、人が運動不足になったのはほんの最近のこと。私たちの体はもともと、動くことを前提につくられているのです。動かずにいれば、筋肉から大切なメッセージ物質が出なくなり、病気に陥ります。筋肉を動かせば、命が守れるのです。私は、筋肉こそが人体のネットワークの中心的な役割を果たしていると考えています」