ミオスタチンは、 筋肉の発達を抑えるメッセージ物質

筋肉という臓器もまた、さまざまなメッセージ物質を出して、周りの細胞に働きかけていることが分かってきたといいます。そんななかの一つで、比較的よく知られるようになってきたのが「ミオスタチン」ではないでしょうか。
 ミオスタチンは、1997 年にアメリカ・ジョンズホプキンス大学教授のセイジン・リー博士の研究グループが筋肉から出るメッセージ物質として初めて発見し、機能を解明しました。ミオスタチンは、筋肉づくりのトレーニングにも影響を与える重要なメッセージ物質なので、これについて解説した箇所を、『人体~神秘の巨大ネットワーク』2から、以下に引用します。

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 ミオスタチンは、筋肉の細胞から周囲に向けて放出され、周りの細胞に「成長するな」というメッセージを伝えることで、筋肉の過剰な増大を食い止めている。しかし、なぜ筋肉が自らの発達を抑えるメッセージ物質を出すのだろう
かーー。
 もともと、野生動物は厳しい自然環境の中を生き延びるために、たくさん動かなければならなかった。獲物を捕まえたり、捕食者から逃げたりするためには太く強い筋肉を身につけ、俊敏に動き回る必要があった。ところが、筋肉は体の中でも最もたくさんエネルギーを消費する臓器でもある。筋肉があり過ぎると体内のエネルギーを使い果たしてしまう。自然界ではエネルギー不足に陥りやすいため、必要以上に筋肉がつくことは命とりになるのだ。そこで、筋肉はミオスタチンを使って、必要以上に筋肉が増え過ぎるのを抑え、エネルギーの消費を最小限にとどめる働きをしていると考えられている。

 リー博士は、「筋肉があり過ぎると、排水溝からプールの水が抜けていくように、どんどん体内のエネルギーを浪費してしまいます。だから、筋肉はメッセージ物質を使って、エネルギーの浪費を抑えているのです」とミオスタチンの重要性を強調する。私たち動物の体は、厳しい自然環境を生き抜くために、適正な量の筋肉を維持できるようにつくられている。ミオスタチンは体内のエネルギー維持をしてくれる、生存に欠かせない重要なメッセージ物質だったのだ。