赤血球の増産を促すEPO

なぜ、短期間で高地に順応し、体の隅々まで酸素が行き渡るようになるのかーー。鍛えられているのは、酸素を取り込む肺?それとも全身に酸素を送り届ける心臓?さまざまな要因はあるが、驚異的な体の変化をもたらした最大の立役者が、腎臓だ。
「高地に来て体に酸素が足りなくなると、すぐさま腎臓が反応し、ある物質を出すことで体の状態を変えてしまいます」と、運動生理学者のダニエル・バーグランド博士は説明する。その物質はEエポ PO(エリスロポエチン)と呼ばれるものだ。体内の酸素が不足していると、腎臓はEPO を大量に出し始める。EPOは、「酸素が欲しい」という腎臓からの訴えを他の臓器に伝えるメッセージ物質だ。

 腎臓から放出されたEPOは、血液の流れに乗って全身に広がっていく。そのメッセージを受け取るのが、「骨」だ。
 骨は硬くてすき間がないように見えるが、実際には血管が出入りする無数の穴があり、骨の内部は空洞になっている。その空洞を満たしている組織が「骨髄」であり、ここで血液の成分がつくられる。血液は血けっしょう漿と呼ばれる液体成分と、血球(体中の細胞に酸素を運ぶ赤血球、病原体と戦う白血球、出血を止める血小板)と呼ばれる細胞成分で成り立って
いるが、骨髄でつくられるのは血球だ。骨髄の中にある「造ぞうけつかんさいぼう血幹細胞」という細胞が、盛んに細胞分裂を繰り返し、あるものは赤血球に、あるものは白血球に、それぞれ成長していく。

 EPO は骨髄に入ると、造血幹細胞から分化した赤血球の前身となる細胞(赤血球前ぜん く さいぼう駆細胞)に、「酸素が欲しい」というメッセージを伝える。すると、赤血球前駆細胞の増殖が加速し、酸素を運ぶ赤血球が増産される。こうして
赤血球が増えると、体の隅々まで酸素が行き渡るようになるのだ。
 腎臓、日常生活でも常に微量のEPOを出し続けており、その量を絶妙に変化させることで赤血球の数を調整している。赤血球が増えれば全身の筋肉に、より多くの酸素が届くようになるため、持久力も上がる。実際、2週間ほどで血液中の赤血球の割合は大幅に増える。