心臓もメッセージ物質を放出している

心臓は、血液を全身に送り出す重要な臓器ですが、心臓はメッセージ物質も放出する臓器なのです。脳の指令ではなく、心臓自身が、その働きをいい状態にコントロールするためのメッセージ物質を出しているというのが驚きです。
 ANP というメッセージ物質の発見は画期的なことだったということですが、それについて『人体~神秘の巨大ネットワーク』1では次のように解説しています:

 

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全身のあらゆる臓器が放出する「メッセージ物質」。メッセージは、血管や神経を情報回路にして行き交い、他の臓器に受け取られる。すると、受け取った臓器はさまざまなリアクションを起こす。このように全身の臓器が直接情報を交わし合うことで、私たちの体は成り立っているという事実が明らかになってきた。このまったく新しい人体の世界観への扉を開く先駆けとなったのは、寒かんがわけん じ 川賢治博士(国立循環器病研究センター研究所担当理事)らの研究グループによる1つの大発見だった。
 かつて医学会では、脳などのごく限られた臓器だけがメッセージ物質を放出するというのが常識だった。それこそが、脳が体の司令塔と考えられていた所以でもある。こうした、古くから知られているメッセージ物質は、「ホルモン」と呼ばれることが多い。電子顕微鏡で脳の細胞を捉えると、細胞内に丸いカプセルのようなものがいくつも見える。これにはホルモンが入っている。ところがあるとき、脳以外の思いもよらない臓器からも同じようなカプセルが発見された。それは、血液を送り出すポンプの役割を担う心臓だった。

心臓は機械的に拍動を繰り返すだけのイメージが強く、心臓がホルモンを放出することは、当時の常識では考えられないことだった。果たして心臓にも本当にホルモンがあるのか? 寒川博士がカプセルを調べたところ、確かに脳が出すホルモンと同様のメッセージ物質が入っていることが分かった。
 ANPと名づけられた、この心臓が発するメッセージ物質の発見によって、それまで「ただのポンプ」と思われていた心臓も、他の臓器に向けてメッセージを出していることが分かったのだ。そして、この発見を皮切りに、心臓だけでなく全身のあらゆる臓器や細胞が、メッセージ物質を放出していることが分かってきた。従来の概念を根底から覆す事実だった。