「人体は巨大ネットワークである」とは どういうことか?

岩波新書に『腸は考える』(藤田恒夫著)という本があります。これは1991年に出版された本ですが、脳からの指令ではなく、腸自体のセンサーが働いて独自に判断し、消化のための分泌物を出しているということを、研究者である藤田恒夫氏が分かりやすく解説したものです。いわば、腸も、脳のように“考えている”ことが解説されている面白い本ですが、「人体~神秘の巨大ネットワーク」は、腸だけでなく、人体のそれぞれの臓器もセンサーを持ち、メッセージを発していることが最新研究から明らかになってきたことを紹介しています。そして、各臓器同士がそれらのメッセージを発したり、受けたりしながら、活動していることが分かってきたということです。

  NHK スペシャル『人体~神秘の巨大ネットワーク』1の「はじめに」で、人体の巨大ネットワークについて、次のように説明しています。

 (前略)
 今までは、人体のイメージと言えば脳が全体の司令塔となり、他の臓器はそれに従うというものでした。ところが、最新の科学はその常識を次々と覆しています。なんと、「体中の臓器が互いに直接情報をやりとりすることで、私たちの体は成り立っている」そんな驚きの事実が次第に明らかになり、今や医学の大きな潮流のひとつになっています。そしてこの臓器同士の会話の解明が、これまでの健康常識や病気の治療法を大きく変えていこうとしているのです。

 

 もう少しイメージを膨らませるために、インターネットとそっくりの世界が、体の中に広がっていると考えてみましょう。体の中に数十兆個ある細胞がツイッターでつぶやくようにして情報を発信し、それをまた別の細胞や臓器が受け取って、行動を起こし始める。たとえば、心臓が発する「しんどい」というメッセージに対して、腎臓が「おしっこを作ろう」と呼応する。ただのアブラだと思っていた脂肪細胞が「エネルギー十分だよ」と伝え、脳は「もう食べなくて良い」と判断する。メッセージとは、細胞たちが発するミクロの物質。情報回線は総延長10 万キロと言われる血管網です。がん細胞がウイルスメールに似たメッセージを発していたり、免疫の暴走がまるで、ネット上の炎上に見えたり。もちろん、これはたとえ話です。しかし、知れば知るほど、インターネットと体の中の世界は良く似ている。いや、私たちの社会以上に高度に進化した情報ネットワークが、体の中に存在するように思えて仕方がありません。