食物は情報を内包している

 ヒトは獣を狩り、家畜を解体し、肉を食らう。鳥を撃ち、魚を突く。たとえ菜食主義者を標ひょうぼう榜しても、植物が時間をかけてその葉や根、実み に貯蔵したタンパク質を収奪し、それを口にせざるを得ない。
 私たちが食物として口に入れるのは、肉にしろ、穀物にしろ、果実にしろ、すべて元はと言えば他の生物の身体の一部であったものだ。なぜ、私たちは他の生命を奪ってまで、タンパク質を摂り続けなければならないのだろうか。
 タンパク質には、元の生命体を構成していたときの情報がぎっしり書き込まれている。ここで言う情報とは、具体的に言えば、タンパク質の構造のことである。このタンパク質の構造情報が生命の機能を支えている。
 タンパク質とは、アミノ酸がいくつも連結した高分子化合物である。生体を構成するアミノ酸は二十種あり、その組み合わせが「情報」となる。このタンパク質の種類は数千万種と言われている。

では、タンパク質の摂取、つまり「消化」とはいったい何を意味するのだろうか。肉や植物に含まれるタンパク質は、食いちぎられ、咀 そ しゃく嚼され、消化管に送り込まれる。そこで消化酵素によって分解を受ける。タンパク質はその構成
要素であるアミノ酸に分解される。 もし、他の生物のタンパク質がそのまま私たちの身体の内部に取り込まれれば、どうなるだろうか。当然のことながら、他者の情報は、私たち自身の情報と衝突し、干渉し合い、さまざまなトラブルが引き起こされる。アレルギー反応やアトピー、あるいは炎症や拒絶反応とは、すべてそのような生体情報同士のぶつかり合いのことである。そこで、生命体は口に入れた食物をいったん粉々に分解することによって、そこに内包されていた他者の情報を解体する。これが消化である。
 消化とは、腹ごなれがいいように食物を小さく砕くことがその機能の本質では決してなく、情報を解体することに本当の意味がある。タンパク質は、消化酵素によって、その構成単位つまりアミノ酸にまで分解されてから吸収される。
 タンパク質が「文章」だとすれば、アミノ酸は文を構成する「アルファベット」に相当する。「I LOVE YOU」という文は、一文字ずつ、I、L、O、V……という具合に分解され、それまで持っていた情報をいったん失う。