疲労回復の決め手は睡眠開始の3時間

 睡眠と疲労について考えるとき、「どれくらい眠ったか」という睡眠時間ばかりに気をとられがちですが、「どれくらい深く眠れたか」という眠りの質もまた重要になります。

 

 眠りにはレム睡眠とノンレム睡眠という2つの段階があります。ノンレム睡眠は「レム睡眠ではない眠り」という意味であり、深さに応じて4つのステップがあります。このうち脳を休めるのは、おもにステージⅢとⅣの深いノンレム睡眠です。ステージⅢとⅣではデルタ波という緩やかな波長の脳波が増えてくるため、「徐波睡眠」(slow-wave sleep)とも呼ば

 

れています。

 

 眠りは浅いステージⅠのノンレム睡眠から始まり、1時間ほどでステージⅢとⅣの深いノンレム睡眠にいたります。この徐波睡眠のときに脳の疲労回復が進められると同時に、体の器官の新陳代謝を促す「成長ホルモン」が脳下垂体(大脳の底部のほぼ真ん中から垂れ下がるように、房状の形で存在する内分泌器官。多くのホルモンを分泌します)から分泌されます。

 

 徐波睡眠から次第に眠りが浅くなり、2時間ほどでレム睡眠にスイッチします。レム睡眠では眼球がキョロキョロ動いていることからわかるように脳は活発に働いており、日中にインプットした記憶を整理する、学習を強化するなどをしています。

 

 第一章で述べたように、情報の大半は目から脳に入るため、それを整理するプロセスで眼球運動が起こっています。フラッシュバックするランダムな視覚情報を意味づけして、ストーリー化したのが夢だと考えられています。

 

 レム睡眠では、徐波睡眠で分泌された成長ホルモンのサポートで、身体的な疲労のメインテナンスが行われています。以後ノンレム睡眠とレム睡眠は交互に現れて、レム睡眠はおよそ90 分間の周期で一晩に4~5回繰り返されます。脳の疲労を回復させる徐波睡眠が現れるのは、一晩の眠りの最初の3分の1ほどです。人の体は睡眠の初期に脳の疲労回復を優先しているのです。それ以降は浅いレム睡眠が増えてきて、目覚める準備が整ってきます。