世界初のプロジェクトで判明した疲労回復成分 「イミダペプチド」

2003年から始まったという産官学連携の大規模プロジェクトから生まれてきた研究成果の一つに「イミダペプチド」という成分があります。このプロジェクトでは、これまでに医薬品や一般企業、また社会的に疲労回復に効果があるとされていた23 種類の食品中に含まれる成分の効果を評価しました。23 種類の成分には、ビタミンC、クエン酸、コエンザイムQ10、カルニチン、アップルフェノン、カフェインなどがあります。

 

このうち、もっとも効果的だというエビデンスが得られたのは、「イミダゾールジペプチド」(以下、イミダペプチド)という成分でした。イミダペプチドという名称は、初めて耳にする人もいるでしょう。実は、我々が日常的に食べている食品に多く含まれている成分です。何に含まれているかというと、それは、鶏の胸肉です。

 

スタミナがつく食べ物というと肉類が真っ先に頭に浮かぶ人も多いと思いますが、牛肉や豚肉に比べると、鶏肉は低カロリーでやや地味な存在です。その鶏肉の中でも、もも肉に比べるとあっさりした淡白な味わいの胸肉に、日本人を脳疲労から救ってくれる成分がぎっしり入っていることが、この研究で判明しました。鶏の胸肉になぜ抗疲労成分が含まれているのかと不思議に思われるかもしれませんが、渡り鳥の行動を考えると合点がいきます。

 

渡り鳥は季節に応じて地上の広い範囲を飛び回っています。中でもキョクアジサシという渡り鳥は、1年の間に北極圏と南極圏を行き来しており、移動距離は3万km 以上に達すると言われています。キョクアジサシを筆頭とする渡り鳥たちが、長時間疲れずに羽を動かして飛び続けることができるのは、羽を動かす筋肉である胸肉に抗疲労成分であるイミダペプチドが大量に含まれているからです。

 

家畜化された鶏はもちろん渡り鳥ではありませんが、野生の渡り鳥と同じように、胸肉にはイミダペプチドを含んでいます。また、イミダペプチドを含んでいるのは鶏の胸肉だけではありません。渡り鳥と同じように海を回遊するマグロやカツオなどの大型魚にも含まれています。マグロやカツオは口とエラを通り抜ける海水を介して呼吸をしています。
泳ぎを止めると窒息死するため、寝ている間も尾びれを動かしながら泳いでいます。その尾びれに近い筋肉に、イミダペプチドが豊富に含まれています。