乳酸は疲労の原因ではない

これまで、疲労の原因物質とされてきたのは「乳酸」でした。乳酸とは、体内で糖質を代謝してエネルギー源として利用するときに生じる物質ですが、

 

長らくこの乳酸が疲労の原因だと医学界では言われてきました。現在の医学では否定されていますが、今も乳酸=疲労物質と信じる人が少なくないようですから、

乳酸と疲労との関わりについて触れておきます。

 

 

 

乳酸は酸の一種のため、筋肉中で濃度が高くなると筋肉が酸性に傾き、食事で得た栄養素をエネルギーに変える酵素の働きを悪くする。すると筋肉がエネルギー不足に陥って疲労が起こり、乳酸が脳にそれを伝えるシグナルとなって疲労感が自覚されるー。これが乳酸=疲労物質説に基づく疲労の説明です。

 

 

 

この乳酸=疲労物質説は、近年の複数の研究によって「反証」され、誤りであることがわかりました。カエルの実験の検証として、ラットやマウス、ウマなどの実験で「乳酸を投与しても、なにごともなかったかのように運動をし続ける」という結果が次々と発表され、「乳酸が溜まった筋肉ではパフォーマンスは低下するものの、乳酸がパフォーマンスの低下をもたらす証拠にはならない」と結論づけられました。

 

 

 

また、乳酸は疲労物質であるから老廃物だ、という見方がありましたが、乳酸の働きについても解明されつつあります。

 

 

筋肉の2大エネルギー源は糖質と脂質です。このうち脂質は酸素がないとエネルギーを作り出せないのに対して、糖質は酸素の有無に関係なくエネルギーになります。

 

安静時や強度の低い運動時には、体内に酸素が十分にあることから、脂質が生命活動のおもなエネルギー源になっています。

 

 

一方、強度の高い運動をすると筋肉内の酸素の消費が増えるため、酸素がなくてもエネルギーになる糖質がおもなエネルギー源となります。乳酸は、この酸素の少ない環境下で糖質が代謝されるときに産生され、酸素が供給されだすと筋肉の細胞のエネルギー源として利用されます。このように、乳酸は老廃物などではなく、糖質の分解やエネルギーの再利用に働くということが判明しています。

 

また、乳酸=疲労物質説が唱える「乳酸が増えると酸性化が進む」というのも思い違いです。筋肉内のp ペーハーHは一定範囲内に保たれており、運動によって極端に酸性に傾くことはありません。

 

 

さらに、最新の研究では、乳酸の増加にとそれに伴う若干の酸性化はむしろ筋肉の活動を促進することがわかってきています。